お知らせ

2021年7月はヤマモトダイゴさん

「ここをアトリエにしてみたいんです」

そのひと言から始まった、2021年7月のKANO PLAT LABO特別企画「ダイゴさんのおでかけアトリエ」。

高知を拠点に全国各地で展覧会を行う画家のヤマモトダイゴさんが、LABOをアトリエにして創作活動を行うというものです。

ダイゴさんは描く作品はシンプルだけど味があり、おしゃれだけどユルさのある線画が特長です。

その絵がLABOに飾られたらどんなに素敵だろうと思い、当初は恒例の「月替わりコーディネート」をお願いしました。

最初の打ち合わせでLABOの空間を静かに眺めるダイゴさん。

LABOはギャラリーではないので無理かな……と思っていましたが、ダイゴさんのなかでは小さなひらめきの花が咲いていたのです。

 

「ちょうどコロナ禍で、2020年はほとんどの展覧会をストップしていました。いよいよ2021年の秋から活動を再開しようというタイミングに声をかけていただいて、自分のなかでには『スタートダッシュの一環』として、何か新しい企画をやってみようと思いました」

 

そして、生まれたのが【LABOをアトリエにして、創作活動を行う】というアイデア。ダイゴさんにとっても、LABOにとっても、初めての試みです。

 

今回の企画にあたり「実際のアトリエにあるものをそのまま持ってきた」というダイゴさん。

壁にあった絵、お気に入りの人形、お仕事でつくった缶や段ボール、ただの紙、そして、いつも使っている鉛筆……

それら一つ一つの配置を決めていく作業は、まるで大きな作品を生みだしているようでした。

 

じっと空間を見つめて一つのものを置き、また見つめて考える……それをひたすら繰り返すダイゴさん。ピンと張り詰めた緊張感が何時間も続き、簡単なお手伝いをしただけなのに私はパワーを使い果たし、グッタリとしてしまいました。

「展覧会の設営も同じですが、こういう作業は強い即興性があるんです。少しのことで隙間ができれば、それをどうやって埋めるかと考える……何か一つのアクションに対し、必ず何か一つの“考えること”が付いてくる。その場その場の“ひらめき”で動くので、頭をとても使うんですよね。

ただ、僕たちは日々それをずっとやっているんですよ。日常だって『問題が起きたけど、どうしよう』と考えることの繰り返しでしょう? 絵も一緒で、『こんな線を描いたけどどうしよう…色を塗ったけどどうしよう…』と考えることの連続です。

でも、経験を積んだことで『これをこうやれば、上手くいく』ということが分かってきた。それは年齢を重ねて、もっとも得をしたことだなと思います」

 

人は老いていくことに怖さや不安などマイナスのイメージを抱きがちですが、「年齢を重ねて得をした」というダイゴさんの言葉にハッとさせられました。

 

「年齢を重ねたほうがやれることが増えてくる。こういう風に場所(LABO)を貸してくれることも、面白い企画に誘ってもらえることも、若い頃ならなかったと思う。

僕たちは年齢を重ねれば重ねるほど良くなっていけると思うんです。晩年の絵描きさんの絵だって、力が抜けていってどんどん良くなっていくんです。僕はまだまだこれから。これからが楽しみですよ」

 

20代の頃から「自分がおじいさんになって、おじいさんの絵を描きたい」という憧れを持っていたダイゴさん。そうした年齢を重ねてからの夢や目標を持っておくのも素敵だなと感じました。

さて。

6時間以上に及ぶ“設営”で、ダイゴさんのアトリエとなったLABO。

「さっぱり」と「ごちゃごちゃ」が絶妙なバランスで生みだしていますが、その思い切りの良さもダイゴさんの年齢と経験が成せる技。棚の上やキッチンの奥など、さりげない場所に作品があるのも贅沢です。

「ここで制作がはかどりそうですか?」とたずねると、「楽しみですね」と笑顔で答えてくださったダイゴさん。どんな作品が生まれるのか……最終日まで目が離せません。